Power Platformで管理部門の業務改善を内製化|伴走支援の進め方

Power Platform による業務改善の内製化とは、Power BI・Power Automate・Power Apps などを使い、現場の担当者が自分の業務の手作業を自分で置き換えていく取り組みです。ただし、ツールの研修をすれば進むものではありません。現場から改善したいという声は出るのに、なかなか形にならない。そんな状況に心当たりはありませんか。

わたしたちは、ある企業グループの業務改革推進部門を支援してきました。推進部門が管理部門の各チームに伴走し、担当者自身が作った改善は18件になります。この連載では、各チームの担当者から挙がった声をもとに、18件から見えた進め方をご紹介します。

この記事でわかること

  • 管理部門の業務改善が「分かっているのに進まない」原因
  • 18件の改善を3つの型に分けたときの全体像
  • 18件に共通していた進め方(3点)
  • 2件目以降の改善が、どこから生まれていたか
  • 担当者から挙がった難しさ

目次

1. 課題:管理部門の業務改善は、スキル不足で止まるのではない

18件の改善前の状態を並べると、似た症状が繰り返し出てきます。

  • Excelで集計したグラフを、毎月PowerPointに貼り直している
  • 対象者ごとにファイルを切り分け、1通ずつメールに添付して送っている
  • 期日や残高をExcelで管理し、担当者しか状況を把握していない
  • 年に1〜2回の作業なので、毎回前年の記憶を思い出しながら進めている

注目したいのは、どのチームも非効率であることを分かっていた点です。担当者からは、改善したいと思っていても他の準備で手を付けにくかった、課題を認識していても作成方法を変えられず後回しになっていた、といった声が複数挙がっていました。

ここで「ツールの使い方を教えれば進む」と考えると、打ち手を外します。本当の問題はスキル不足ではなく、毎月の締めを回しながら、作り方を変える時間と最初の一歩を確保できないことでした。実際、Power BI や Power Automate は初めてだった、という声も複数ありました。それでも18件が形になったのは、推進部門が隣で最初の一歩を一緒に踏んだからだと、わたしたちは考えています。

改善を妨げていたのは自分の中の慣れだった、という声もありました。今のやり方で困ってはいない、忙しいから後で、と先送りしていたそうです。

2. 18件の全体像:改善は3つの型に分かれた

18件を、何を置き換えたかで分けると3つの型になります。

Power Platformによる業務改善18件を、レポートの見える化8件、定型作業の自動化7件、台帳のアプリ化3件の3つの型に分けた全体像の図
型件数主なツール置き換えた作業の例
レポートの見える化8件Power BI資金運用・経営数値・経費予算・休暇取得・時間外労働の月次レポート
定型作業の自動化7件Power Automate、Power Query研修アンケートのリマインド、証明書・試算資料の作成とメール送信
台帳のアプリ化3件Power Apps外部専門家の起用履歴、タスクごとの工数、為替予約の期日管理

部門で見ると、人事系が9件、財務系が6件、法務・経営企画・知的財産が各1件です。

各チームが挙げたツールは、Excel、Forms、SharePoint、Teams と Power Platform の製品だけでした。変わったのは作り方で、現場が毎日開く画面はほとんど変わっていません。レポートは Power BI で見るようになりましたが、元データの入力はExcelのまま、連絡はいつものメールとTeamsのままです。ライセンスは、一部の用途で追加しています。

3. 伴走の体制:作るのは現場、支えるのは推進部門

体制は3層です。

各チームの担当者が改善を作り、社内の業務改革推進部門が伴走し、FROM CENTERが推進部門を支援する3層の体制と、1件目から横展開が進むサイクルの図
  • 各チームの担当者:何を変えるかを決め、自分で作る。取り組みの紹介も本人が社内に投稿する
  • 業務改革推進部門:社内コンサルタントとしてチームに入り、作り方とつまずきを一緒に解く
  • FROM CENTER:推進部門を支援する。技術的な難所の解決、推進部門メンバーの育成、どの業務から手を付けるかの相談を担った

FROM CENTER は、各チームに直接入るのではなく、推進部門の後ろに立つ形を取りました。推進部門のメンバーが詰まったフローやクエリを一緒に解き、各チームに伴走できるだけのスキルを身につけてもらう。着手する業務の選び方も、推進部門と一緒に考えました。支援の窓口を推進部門に絞ると、外部の支援が終わっても社内に伴走できる人が残ります。

担当者からは、推進部門の丁寧な支援・伴走に感謝する声が多く挙がっていました。それでも、作ったのはあくまで担当者本人です。作った本人が中身を分かっているので、翌月からの修正も本人ができます。今回の経験を生かし、今後は自走できるようにしたいと考える担当者もいました。

基礎的な操作は、社内のIT部門が定期的に開いている初心者向けハンズオンで身につけた、という声もありました。推進部門の伴走と、全社向けの基礎講座が分かれていたことになります。

4. 18件に共通していた進め方

18件を並べてみると、うまく回った改善には共通点がありました。

ツールを入れる前に、集計のルールを言葉にする

休暇取得状況のレポートを Power BI にしたチームは、「どのデータをキーに、どう集計するか」を改めて整理してから作り込みました。データの取得元も1つの人事システムに統一しています。担当者からは、この整理がもっとも重要で、推進部門の伴走があったから実現できた、という声が挙がっていました。

手作業のExcelでは、集計のルールが担当者の頭の中にあります。そのまま自動化すると、ルールの曖昧さまで自動化されます。先にルールを言葉にしておけば、作った後に数字が合わないときも、どこを見ればよいかが分かります。

人の判断が要る工程は、無理に自動化しない

定年到達者の再雇用確認では、9工程のうち会議での審議だけを人の作業として残しました。前後の抽出・資料作成・部署ごとのメール送信・回答の集約は自動化しています。担当者によると、半年ごとに約3日かかっていた作業が約30分になったそうです。

全部を自動化しようとすると、例外への対応で作り込みが膨らみます。判断は人に残し、その前後の転記と送信だけを置き換えるほうが、早く形になります。

2件目は、1件目の部品を使い回す

休暇取得状況のレポートを作ったチームは、2件目の時間外労働のレポートを同じファイルの中に作りました。在籍者の人事情報テーブルを共通で使い、設定も共通化しています。作業負荷が軽くなり、メンテナンスもしやすい構成になった、という声が挙がっていました。

1件ごとに別のファイルで作ると、同じデータの取り込みと整形が改善の数だけ増えます。

5. 2件目は同じチームから生まれる

18件を、どのチームから出たかで数えると、はっきりした傾向がありました。

チーム件数内容
人事系・給与と旅費のチーム5件試算資料、公租公課、海外勤務者の給与、立替経費、証明書
人事系・労務のチーム3件休暇取得、時間外労働、再雇用確認
財務系・資金のチーム3件資金運用レポート、時価評価・保証明細のレポート、為替予約アプリ
財務系・財務企画のチーム2件経営数値レポート、間接予算管理
その他の5チーム各1件研修運営、案件ごとの預金残高、外部専門家の管理、工数管理、経費予算

2件以上の改善を出したチームは4つで、その4チームだけで18件中13件(72%)になります。

1件目を経験したチームは、次に置き換えられる作業を自分で見つけるようになります。給与と旅費のチームでは、同じ Power Automate と Power Query の組み合わせを、別の業務に次々と当てていきました。設定は大変だが、一度作れば仕組みが連鎖して展開する、という声もありました。

この数字からは、広く浅く声をかけるより、1チームで1件目を確実に仕上げたほうが、件数は伸びると読み取れます。推進部門の時間は有限です。これから推進部門を立ち上げる企業では、最初の数チームで1件目を仕上げることに時間を集めるのが近道になります。

6. 実績

各チームの担当者が挙げた数値です。いずれも担当者本人の実感や集計によるもので、第三者が測定したものではありません。見込み・目標とされているものは、そのまま表記しています。

改善の内容改善前改善後
定年到達者の再雇用確認(半年ごと)約3日約30分
海外勤務者の給与関連書類の作成と送信(年2回・130〜140件)2〜3日半日以下。添付間違いゼロ
経営数値の月次レポート1〜2日。データファイル約80個半日(見込み)。ファイルは約半数に
新入社員研修の事務局運営―研修期間全体で約100時間の削減(予定)
立替経費の請求資料作成四半期あたり111時間四半期あたり55.5時間(目標)
保証明細の月次レポート毎月のレイアウト調整調整が不要に。年間10時間の削減

数値を挙げていない声も多くありました。レポートの見える化では、時間の削減よりも、前年比や月次推移が見えるようになった、異常値に気づきやすくなった、といった質の変化を挙げる声が中心です。

7. 担当者から挙がった難しさ

事例紹介では成功だけが語られがちなので、担当者から挙がった難しさの声も共有します。いずれも、これから同じ取り組みを始める企業が最初から織り込んでおくべき点です。

業務の繁忙期と、作る時期が重なる

経営数値のレポートでは、決算業務と重なってスケジュールどおりに進まなかった部分がある、という声が挙がっていました。管理部門には締めや決算といった動かせない山があります。着手の時期は、各チームの業務カレンダーと突き合わせて決める必要があります。

作り込んだ仕組みほど、直せる人が限られる

就労証明書の作成を自動化したチームからは、とても大きなクエリを組んだので、今後の修正にも対応できるようにしたい、という声がありました。自分で作ったものでも、規模が大きくなると保守が難しくなります。作った直後に、どこを直せば何が変わるかを残しておくことが欠かせません。

導入の途中で要件が増える

資金運用のレポートでは、導入の途中で部内から追加の記載項目を頼まれ、エラーも起きた、という声が挙がっていました。レポートは、見られるようになると要望が増えます。最初の版で全部を載せようとせず、追加を前提に作り始めるほうが、完成までの時間が読めます。

8. まとめと連載の予定

  • 管理部門の業務改善が止まる原因は、スキル不足ではなく、作り方を変える時間と最初の一歩が取れないこと
  • 18件は、レポートの見える化・定型作業の自動化・台帳のアプリ化の3つの型に分かれた
  • 作るのは現場の担当者で、推進部門が隣で支え、外部は推進部門を支える。作った本人が直せる状態を残す
  • ツールの前に集計のルールを言葉にし、人の判断が要る工程は残す
  • 2件目は同じチームから生まれる。18件中13件は、2件以上を出した4チームによるもの

次回からは、型ごとに事例を掘り下げます。

  • 第2回:月次レポートの Power BI 化
  • 第3回:Power Automate と Power Query による定型作業の自動化(近日公開)
  • 第4回:Power Apps による台帳のアプリ化(近日公開)
  • 個別事例:就労証明書の作成の自動化(近日公開)

ご相談ください

次のような課題をお持ちでしたら、お問い合わせください。現状のヒアリングから、推進体制の組み方までご相談を承ります。

  • Power Platform のライセンスはあるが、現場での活用が進まない
  • 社内に業務改革の推進部門を作ったが、支援の進め方が定まらない
  • 管理部門の月次レポートや定型作業を、外注せずに内製で置き換えたい

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※本記事は、企業名・部署名・担当者名・社内システム名を伏せ、各チームの担当者の声を要約したうえでご紹介しています。

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